
自分はいじめられる側の気持ちがわからない。
なぜなら、どんなに想像を膨らましても、どうしても実際にいじめられたことがある人の解像度には遠く及ばないからだ。
もちろんいじめたこともない。そのつもりだ。
でも、自分がいじめなければ、それはいじめがなかったことになるのか。
人はみな誰かに対して好感や嫌悪感を抱く。
その思いが行動に現れるか、感情にとどまるかの違い。
だが、思いとどめているつもりが、”関わらない”という行動に現れていることもあるのではないか。
そんななか始まるデスゲーム。
もしあなたがこのデスゲームに参加したら、生き残れるでしょうか?
ぜひ、この本を読んで一緒に参加してみてください
小説『二人一組になってください』あらすじ(ネタバレ無し)
デスゲームのスタート

京都の女子高で生徒たちはそれぞれの思いを持ちながら生きている。
それぞれの外見や内面を持ちながら、自然と”カースト”が出来上がり、つるむ"友達”も決まる。
この女子高では、カーストが一軍から三軍まで分かれており、二軍・三軍に至ってはその中でもさらに上中下の3階層に分かれる。
ここに、とある生徒が東京から転校してくる。
誰がどう見てもカースト上位をしのぐレベルの外見を持ち、カースト下位の生徒とも仲良くするほどの完璧な内面を持つ生徒だ。
この生徒がカーストの最上位に立ち、合計26人で卒業式を迎える。
そんな晴れやかな日に黒板に書かれたデスゲームという言葉は、冗談にも思えた。
だが、一人の犠牲者が出たことで26人の生徒は本当のデスゲームであると悟るのであった。
真実を明かしながら死にゆくクラスメイト

二人一組になって余った生徒が死ぬ。
その他にも細かいルールはあるが、いたってシンプルなデスゲームである。
二人一組を作り、解消し、また二人一組を作り、このゲームを繰り返して最後に生き残った1人または2人が、晴れて卒業することとなる。
各回では、死におびえながら、自身の過去や”友達”に対して思うことを明かし、死にゆくのであった。
残酷だがあっさりと生徒が死んでいく中、最後まで生き残り、無事に卒業できるのは誰なのか。
小説『二人一組になってください』レビュー
デスゲームという明瞭な構造
デスゲームはその構造が単純になりがちだ。
物語の大半のデスゲームは死ぬかどうかの瀬戸際を表現するフェーズと、死ぬ人(or死にそうな人)に焦点を当てて深掘りするフェーズに分かれる。
そして、この2つのフェーズをひとまとまりにして、ゲームを繰り返すことで物語が進む。
この小説もおおむね似たような構造で物語が進んでいたように思う。
「この人が死にそう/生き残りそう」と仮説を立てながら読み進めるが、思った以上に予想通りであり、どんでん返しというどんでん返しは少ない(ないわけではない)。
ただ、この小説の本質はどんでん返しではないので、それを求めるのは筋違いではあるとも感じている。
デスゲーム攻略法を読者に気づかせる生徒たち
デスゲームの物語を鑑賞するのであれば、少なからず生き残る術を想像するだろう。
この小説でも例にもれず生き残る方法を考えたわけだが、ルールがシンプルであるが故に難易度が増している。
そんな中、登場人物もそれぞれの目線で生き残る術について考えており、頭のキレる生徒はもちろん生き残るための方法を理解しているのだ。
その生徒の心の声(=地の文)を読むことで、デスゲームへの解像度が高くなる構造となっている。
特に、読者に気づいてほしい要素を自然と読者にインプットさせており、まるで自分がデスゲームの参加者であるかのように没入して読むことができた。
著者である木爾チレンさんが狙って設計したのかは不明だが、読む手が止まらなくする大事な構造であったと思う。
小説『二人一組になってください』感想
もし自分もデスゲームに参加していたら生き残ることができたのか

デスゲームの物語あるある。
自分がデスゲームに参加したときのムーブを考えがち。
前の章でも述べたが、だいたいの人はデスゲームに参加したときの必勝法を考えてしまうのではないか。
ルールを見て、勝てる条件を理解し、実行するための戦略を練る。
もれなく自分も読みながら頭の中で勝つための方法を考えていた。
果たして自分はこのデスゲームに参加した場合、生き残れるのか。
答えは否。生き残れないと思う。
そもそも必勝法どうこうではなかったのだ。
というのも、生きててほしい/殺したいという感情が生死を分ける大きな要因であり、日頃の生活から勝つかどうかは決まっていたからだ。
デスゲームのルールを理解しても、それは生き残るための必要条件であって、十分条件ではない。
生きててほしいと思われない限りは、生き残ることはできないのだ。
それも、”特定の生徒から”。
スノードロップの花言葉は調べるな

あなたはスノードロップの花言葉を知っているだろうか。
こんな問いかけをしてなんだが、もし知らないのであれば最後まで調べずに読み切ってほしい。
ネタバレになるから細かいことは言わないが、ちゃんと本の中で花言葉の説明がなされる。
ところで、この可憐な花の特徴は、夜に眠り、朝に咲くという習性?があるらしい
太陽が昇って日に当たると花が開き、日が沈むと花びらを閉じるとのこと。
卒業式のシーズンである2月~3月に咲くらしく、毎年のように花を咲かせて卒業生を見送る。
今年もどこかで咲いては、卒業生を見送るのだろう。その花言葉とともに。
いじめはなくならない。けど、救われる人もいる。
この本の中ではスノードロップが多義的な意味を持ち、どっちかで解釈するのではなく、どちらとも解釈するべき存在であったように思う。
複雑な感情を複雑なまま言葉にできる作家さんはやはり偉大だ。
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