
どん底とまで言わなくても、ちょっとつらいなとか、気分が乗らないなとか、ちょっとだけ落ち込んでしまうことは誰にでもあると思う。
そういったとき、どうやって克服しますか?
自分の力で克服できる人もいると思います。
でも、誰かが手を差し伸べてくれたり、誰かが背中を押してくれたり、自分からついていこうとしたりと、誰かの存在がびっくりするほどの活力を生むのではないかと思います。
この記事では、どん底を味わった人、落ち込むような出来事があった人が、人との出会いやかけられた言葉に救われ、再び歩み始める小説を紹介します。
『さいはての彼女』あらすじ(ネタバレ無し)
もう一度立ち上がる4つの短編物語

25歳にして起業し、ハードワークを惜しまずに10年間も働いてきた女性社長。
会社を大きくしてきた社長の努力を水準としたとき、その水準についてこれる人は少なかった。
長年付き添ってきた秘書も脱落する一人だった。
絶大な信頼を置いていた秘書が去り、失意のさなかでその気を紛らわすために出かけた沖縄バカンス。
の、はずだった。
秘書に頼んだ最後の仕事として、バカンスのあらゆる手配を依頼していたが、手配されたのは南北が真逆の北海道、女満別であったのだ。
それがわかったのもフライト直前、今頃行き先を変更することもできず、仕方がなく北海道に向けて飛ぶことに。
信頼していた秘書が会社を去り、楽しみにしていたバカンスも台無しになるというどん底を生きる女社長であったが、北海道・女満別でパワフルな女性と出会う。
この予想外の出会いが女性社長の心を癒し、立ち上がるきっかけとなるのであった。
これはただ4編あるうちの1つ。
人はどん底に落ちても立ち上がれると教えてくれる4つの短編集。
『さいはての彼女』レビュー
教科書のような情景描写

小学生の教科書に、天気の描写は感情を表す比喩表現である、なんて説明があるのではないか。(さすがにないかな)
この作品でも天気の描写が登場人物の心情とリンクしている。
各編でも何かしらの出来事がきっかけで雨や風、曇りといったネガティブな天気から、晴れやかなポジティブな天気に移り変わる。
この作品では、この天気・天候の移り変わりの描写が(いい意味で)分かりやすく描かれており、心が温まるポイントが明確である。
もちろんこれは描写の変化を表しているだけであり、重要なのは”何が変かをもたらしたか”ということ。
天気が変わる前後で何があったのか、どの出来事が登場人物の心情に影響を与えたのか、そんな視点で読んでみるとより一層深く読み込めるのではないかと思う。
すごく読みやすく、だからこそ芯から心を温めてくれる作品であったように思う。
万人受けか、単調か
正直に言えば、評価が分かれる作品に思う。
好み次第だが面白くないと感じる人もいそうだし、その人の主張もなんとなく想像でき、わからんでもないなと思う。
それは、テーマとストーリー展開が明確で誰にでも読み取りやすい作品だということだ。
どんでん返しや、巧妙な伏線回収といった、ストーリーの構造で面白いと思わせる作品を好む人には刺さりにくい。
一方で、人の感情にフォーカスされ、成長や克服といった人間性を描く作品を好む人には刺さると思う。
超ざっくり言えば、辛いことがあり、出会いや周囲の人の言葉に救われ、再び歩みだすという構造となっている。
シンプルであり、これを単調だと感じてしまう人もいるかもしれないが、全4編のうち二つとして同じような人間性を描いた作品はない。
構造ではなく、描かれる人間に面白味が生まれる作品なのではなかろうか。
『さいはての彼女』感想
表紙に戻ってニヤつく自分
タイトルを読むと、まず最初に「なんでこのタイトルなのか?」と考える癖がついている。
“さいはて”はなぜひらがななのか、”さいはてにいる彼女”などの別のタイトルではない理由は何だろうか、と考えてしまう。
こんなことを考えながら読み進めるわけだが、(普通にきもいのは承知だが、)ストーリー展開でタイトルの伏線が回収されるとニヤニヤしてしまう自分がいる。
まぁニヤニヤは誇張ではあるけど、少なからず感心してしまう自分がいるのは確かだ。
今回の作品でも、伏線回収とまでは言わないが、「だからこのタイトルか」なんて感じる瞬間があった。
これに関しては、ちゃんと皆さんがこの作品を読んで実感してほしい。
(自分が執筆する側になったら、ちゃんとタイトルに込められた意味を文章中に散りばめたい。)
さいはての"私"になりたい

この本には活力のある人たちが描かれている。
登場人物をどん底から引き上げ、そのまま背中を押して走りださせてしまう。
それくらい他者を前に進めさせる力のある人間なのだ。
そして、この作品を読んでただ「いい話だなぁ」なんて思う以上に、自分も人の背中を押す側になりたい、前向きにさせられる人になりたい、そう感じるようになってしまった。
これもまたこの作品、いや"さいはての彼女"の力だろうか。
登場人物だけでなく、読者をも前向きにさせてしまう"さいはての彼女"をぜひ堪能してほしい。
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