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【新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆)レビュー】読書はノイズとの出会いの場

まえがき

執筆時点(2025年12月末)でも初版の出版からだいぶ時間が経っているが、未だに話題になり続けている話題の本です。(自分の周りだけかもだが)

この記事を読んでいる人は、働いていても普通に本が読める本好きか、手っ取り早く要点を抑えてわかった気になりたい人だと思う。

前者については、ぜひ皆さん自身の思う"なぜ働いていると本が読めなくなるのか"の理由と、この記事の主張を比較するなりなんなりしてほしい。

賛否があるからこそ、その賛否を愉しんでほしい。レスバとかしなくていいので「いろんな意見があるな~」くらいで愉しんでみるといいと思います。

そして、後者の皆様。黙って本読んだほうが良いですよ

ただでさえ本を読むだけでは意味ない(自論)のに、要約されたものを見聞きして理解した気になるのは滑稽もいいところです。

三宅さんがこの本の主張をするに至った背景や思考の過程を理解して初めて、主張への納得感や意見の相違が生まれると思います。

ぜひ、この記事を読んで、本も読んだうえで、またこの記事に戻ってきてほしいなと思います。

「なぜ働いているとな本が読めなくなるのか」という問いへの個人的見解(読む前)

興味ない人は飛ばしてください!

普通に時間がない

やはり、働いていると娯楽の時間が少なくなってしまうのが普通だと思う。

仮に9-17のフルタイムで働いているとして、その他の時間で睡眠や家事、人によっては育児などの時間も減らすと、娯楽にかける時間は相当少なくなってしまう。

特に「働いている人」となると、身の回りのことを誰かがやってくれるわけでもないため、娯楽の時間を増やすことはなかなか難しくなる。

その上で、ただでさえ娯楽の時間が少ないのに、残業なんてしたらなおさら娯楽に充てる時間が減ってしまう。

休日はあるにせよ、働いている人は普通に娯楽の時間があんまりないと思う。

手っ取り早く感情が揺さぶられるコンテンツが溢れすぎている

どうにかして娯楽の時間を確保できたとしよう。

この短い娯楽の時間を過ごす上で、数多の娯楽から"読書"が選ばれなければならない

だが、実態として読書は娯楽の中でも優先順位が低すぎる、というかそもそも選択肢に入っていない人が大半だと思う。

というのも、昨今では手っ取り早く楽しめる娯楽の勢いが強すぎるからだ。

しかも、なぜか生き急いでいる人が多く、ファッション効率厨が要約や解説動画を優先する傾向が強い。

まぁ、娯楽の時間が少ないからこそ、要約とか解説を見聞きすることで近道しようと思うのはわからんでもない。(が、体験価値は相当落ちてしまう気がしている。あと、ビジネス書や実用書は急がば回れだと思うからちゃんと読んだほうが良い派です)

だから、手っ取り早く"面白い"や"楽しい"といった感情を獲得できるコンテンツが充実している現代で、1冊を読み切るのに時間のかかる本は選ばれないのも当然だと思う。

これが、この本を読む前に個人的に考えていた、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」に対する仮説だ。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の内容(要約なし)

「労働と読書のあり方の変遷」という新視点

この本では、1~9章で労働と読書の歴史を紐解いている。

労働と読書の歴史という視点からタイトルにもある「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という問いへの解を見出そうとしている時点で、相当に興味深い内容になっていると断言する。

細かい話は端折るが、明治ごろから現代に至るまで10~20年をひとまとまりとして、各年代の傾向を1章にまとめて整理している。

それぞれの時代の労働のあり方と読書が持つ価値が説明されており、知らなかった事実(または仮説)もたくさん出てくるので、知的好奇心がくすぐられる本だと思う。

ちなみに、タイトルに対する回答(結論)だけ知りたい人は2000年代を取り扱っている8章以降を読んでもらえればいいと思う。

まぁ、もっともそんな読み方するような奴はそもそも本なんて買わないと思うし、そこらへんの要約を投稿している動画や記事、AIで満足するだろうけど。

本が読める労働をしよう

三宅さんがこの本で最も言いたかったことが詰まっているのが最終章だ。

タイトルの問いへの回答は9章までで済んでいる。そのうえで、やはり働いていても本が読める世界を実現したいのだ。

では、どんな労働であれば働きながら本が読めるのか。

それはぜひこの本を手に取って確認してほしい。

立ち読みでもわかる範疇であるが、できるならまえがきからじっくり読んだうえで最終章を読んでほしいと思う。

「なぜ働いているとな本が読めなくなるのか」を読んで感じたあれこれ

納得感のある結論

結論から言えば、三宅さんの主張する内容にめちゃくちゃ納得できた。

シンプルに時間がないんだけど、時間がないのは今に始まったことではない

真因は別にあって、それは「手っ取り早さ」が価値を生む現代であるから(超意訳)だと理解した。

だがその主張以上に、本が持つ価値って何だろう?という疑問への回答に首がもげるほどうなずいてしまった。

それは、読書は手っ取り早くないという素晴らしい価値があること、本書の言葉を借りれば、"ノイズがある"ということだ。

ノイズの存在価値

現代人はノイズのない情報を欲しているが、自分が欲しているノイズのない情報だけを取り入れるだけで生きていけるのか

それは(かくかくしかじか説明があるんだけど)無理だ。

だから、ノイズを排除せずに蓄積したほうが良いし、そのために手っ取り早いのが読書なのである。

もし大事な商談を成功させるためにノイズが必要だったら?

気になる相手を落とすために、自分は興味ないけど相手の興味のあるトーク(ノイズ)が必要だったら?

その一瞬で繰り出す一言が人生を分けるという場面で、ノイズが蓄えられていなかったら後悔しますよね。(もっとも、ノイズは能動的に獲得できるものではないので、後悔すらできないですが。)

ノイズはどこかで役に立つ。ただそれだけ。でも、それが最大の価値になる

その世界は実現できないのでは・・・

三宅さんの主張として、「働きながら本が読める世界であるべきだ」とある。

確かにそうではあるんだけど、それって実現できるのかなぁなんて思う。

ざっくり言えば、"無駄な労働が多いから効率化して、その分労働日数も減らそうぜ"ってことなんだけど、やった感の欲しい日本人は多分これができない。

根拠はなく、回りの社会人を見て感じていることなので個人的な感想でしかないが、効率化されたらその分別の仕事をすると思う。

だから、普通にやれば3日で終わる作業を5日かかると言い、実際は気合で1日で終わらせて4日間を娯楽に費やす働き方こそが「本が読める世界」のあり方だと思う。(邪道of邪道)

一見すると非効率(だが実際は効率的?そもそも読書に効率性を求めるべきではない?)な読書の時間を確保するために、効率的な生き方をしていきたいものだ。

余談

この本もノイズだらけ

この本を手に取る人は少なからずタイトルへの答えを欲しているはずだ。だが、その答えを知るだけなら、要約記事や動画を見ればよい。

でも、少なくとも自分は300ページ弱あるこの本を手に取ったし、すべて読み切って大変満足している。

なぜなら、"大量のノイズに触れることができたから"だ。

実際、本書でも以下のようなことが主張されている。

自分から遠く離れた文脈に触れることーそれが読書なのである。(p.234)

この本のおかげで労働と読書の歴史を知ることができたし、三宅さんの書く文章って結構面白いんだなという発見もあった。

そもそもこの手のジャンル(新書)も意外と面白いなという発見もあり、偶然出会えたノイズが自分の世界を広げてくれたのだ。

読書でしか得られない栄養がそこにはある。

ノイズに出会いにくいこの世界

ノイズこそが至高だと実感させてくれたこの本ではあるが、一方で読書以外でノイズを得にくいなとも思う。

というのも、この世のあらゆることが、勝手にあなたの興味に合わせて情報を選別しておきましたよ、なんて余計なことをしてきやがるからだ。

X(旧Twitter)のタイムラインも、Instagramの広告も、全部興味がありそうなことを推してくる。

でも、最も好奇心がくすぐられる瞬間は「全然興味なかったけど面白そうかも」という感情が芽生えた瞬間だと思う。

あえて自分の興味がないことに関心を持たせてくれるコンテンツはないのか。

いや、結局は本なんだろうな。

本は生きる世界を広げてくれる。

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